天敵製剤とは?

自然界で、ある生物を捕食や寄生によって殺してしまう別の生物を天敵と総称します。
ムシ(昆虫、ハダニ類)の世界でも普通に見られる、この食物連鎖の仕組みを人為的に利用することで、農作物につく害虫を防除することができます。

対象害虫(多くは海外からの侵入害虫)の天敵を大量に導入・放飼して定着を促し、永続的に防除効果を持続させる方法は「伝統的(古典的)生物的防除法」と呼ばれ、国内の成功事例としてはイセリアカイガラムシに対するベダリアテントウの導入(1911~)、クリタマバチに対するチュウゴクオナガコバチの導入(1979~)などが著名です。

1990年代以降は主として施設栽培において、農薬取締法により農薬として登録され製品として流通している天敵を、個々の生産者が購入して放飼するという技術体系が一般化しています(「放飼増強法」と呼ばれます)。
栽培期間中に複数回天敵を放飼することで、施設内における天敵の定着と増殖を促し、栽培期間中の防除効果持続を期待するものです。
このように使われる製品化された天敵は、自然界に在来する土着天敵と区別するために天敵製剤(または天敵農薬)と呼ばれています。

特長・メリット

特長その1 安全・安心をお届けします

自然界にもともと存在する天敵(昆虫やカブリダニ)を探索し、大量増殖して製品化したものが天敵製剤です。そのため作物への残留、土壌や水系の汚染、散布作業者への被爆といった化学合成農薬で考慮する必要がある様々なリスクは、いずれも極めて低いといえます。

また有益な天敵であっても、それが外来生物である場合は土着化して国内の生態系を乱すことがないことが確認されたうえで認可される制度となっています。

特長その2 害虫の抵抗性管理に有効

多くの害虫や病原菌は、長年にわたって同じ系統の化学農薬を使用していると抵抗性(耐性)を獲得して効果が弱まることが知られています。ところが天敵の捕食や寄生(産卵、感染)という行動に対し、対象となる害虫が抵抗性を獲得することはありません。また既存の殺虫剤に抵抗性のついた害虫であっても、天敵の捕食量や産卵数は減少しません。

さらに天敵を併用し殺虫剤の散布回数を減らすことで、その殺虫剤に対する害虫の抵抗性発現を遅らせることが期待されます。

特長その3 防除効果の持続性

一般的な化学農薬の残効期間は数日から数週間とされます。植物体上に散布された化学農薬の有効成分は、紫外線や水、微生物により経時的に分解されますし、浸透性・浸達性をもち植物に吸収された有効成分も植物体内で代謝され減失します。

これに対し放飼された天敵は、環境条件が良好であれば自ら産卵・増殖します。放飼された個体(世代)だけでなく、その子孫も同じように対象害虫を捕食または寄生することで、栽培期間中の長期間に渡って防除効果を発揮するのです。

特長その4 散布処理が簡易

天敵製剤の処理方法は、軽量なボトルに入った天敵を作物上にパラパラと振りかける(捕食性カブリダニ等)、ボトルのキャップをあけて静置すれば天敵が自ら飛んでいく(寄生蜂等)など、極めて省力的です。また有効成分は生きた昆虫やカブリダニですので、本能に従い自らの餌や寄主を探索します。希釈液の入ったタンクを背負い、「薬液が葉裏にかかるようノズルを調整し、撒きむらのないよう丁寧に散布する」化学農薬の散布作業と比べると、労力の軽減と作業時間の短縮がはかれます。

留意点 上手に使いこなすために

生物の生態を利用しているため、防除効果や天敵の定着性は温度・湿度などの圃場環境により大きく左右されます。化学農薬に対する耐性も化学農薬の種類により異なるため、併用する化学農薬の選択と使用時期には注意が必要です。

また餌や寄主となる害虫の密度が高い条件で放飼されると、捕食・寄生行動が旺盛に行われても「後追い」となり、防除効果としては不十分となります。放飼前の害虫密度が極力ゼロとなるよう、早めの放飼または天敵に影響の少ない殺虫剤処理後の放飼を心がけてください。

天敵の放飼後も対象害虫の発生消長に注意し、必要に応じて殺虫剤のスポット散布(レスキュー防除)、天敵の追加放飼などを行うことで、天敵の効果を生かした防除体系が実現します。

  1. 圃場・栽培環境が、概ね天敵の活動可能温度・湿度に該当するか確認します。
  2. 殺菌剤、葉面散布剤を含めて天敵への影響を考慮した防除体系を組みます。
  3. 天敵放飼前は害虫密度がゼロとなるよう心がけます。(ゼロ放飼)
  4. 天敵放飼後も害虫密度を確認し、次の手を。(レスキュー防除/追加放飼)

生産者の皆様へ

1. 安全・安心な農作物、ブランド化にご活用下さい。
  ●有機JAS法に適合し、農薬の散布回数にカウントされませんので、
   有機栽培、特別栽培農産物でも使用可能です。

2. 難防除害虫、抵抗性害虫への対策としてお役立て下さい。
  ●生物なので、抵抗性(感受性低下)の心配はなく、薬剤抵抗性の
   発達した害虫に対しても高い防除効果を示します。

日本生物防除協議会について

JBCA

日本生物防除協議会(Japan BioControl Association)は、日本微生物防除剤協議会(2006年~)および日本バイオロジカルコントロール協議会(1997年~)の合併により、2016年4月に発足いたしました。 生物農薬(天敵製剤、微生物殺虫剤・殺菌剤)及びフェロモン剤を用いた生物防除技術だけではなく、それらの技術と併用可能な化学農薬を合理的に組み合わせた「IPMプログラム」を確立し普及・啓蒙することで、持続可能な農業生産を支え、日本農業の発展に寄与することを目指します。 ご支援、ご協力いただける会員を募集しておりますので、作物保護製品・技術の製造販売および普及に取り組まれている皆様方におかれましては、ぜひご入会くださいますよう宜しくお願い申し上げます。